注文のときに名前を聞いて、カップに書いてくれるカフェがある。
この前、とっさに答えたのは、本名ではなく昔のあだ名だった。
手渡されたカップには、私じゃない名前。
いや、私なんだけど…
知らない人に本名を渡すのは、意外と度胸がいる。
マッチングアプリからLINEに移った相手にも、最初は同じだった。
趣味も、身長も、週末に何をしているかも、プロフィールで知っている。
なのに、本当の名前だけがわからない。
こういう出会いでは、名前がいちばん最後にやってくる。
名前ひとつ聞くのに、どうしてこんなに指が迷うのか。
マッチングアプリからLINEに移ったら、名前はいつ聞くか
アプリでは、あだ名やイニシャルで登録している人が多い。
LINEに移っても、目に入るのは本人が決めた名前。
本名なのか、あだ名なのか、そこからしてわからない場合もある。
アプリの中では、本名まで聞かなくていい
LINEを交換する前、アプリのメッセージの段階で、本名を聞く人もいる。
その段階では、まだ相手がどんな人かもわからない。
ここで聞かれた本名は、答える側にとって、少し重たい。
アプリでは、プロフィールの名前で呼び合っておく。
LINEに移る、という段差があるからこそ、名乗る理由も自然に生まれる。
いちばん自然なのは、LINEに移って最初の一通
名前を聞くなら、LINEに移ってすぐが、いちばん角が立たない。
場所が変わったタイミングは、あいさつをし直す口実になる。
アプリでの名前を前置きにすれば、名乗る流れも自然にできる。
男性にとっても、移ってすぐなら、聞くきっかけに困らない。
LINEに移った瞬間の、少しだけ距離が縮まった空気。
聞くなら、その空気に乗せたい。
日にちがあくと、今さら感が出て、聞くほうも聞かれるほうも照れくさい。
LINEの名前がニックネームや英字なら、それがきっかけになる
LINEの名前が、英字だけ、愛犬の名前、という人も多い。
こういうときは、読めない、わからない、をそのまま聞く理由にしていい。
読み方を教えてもらう流れなら、詮索の匂いが消える。
今の彼のLINEの名前も、大文字のアルファベットが三つ並んでいるだけだった。
聞きそびれたまま、会う日が近づいてきたら
困るのは、聞けないまま、約束の日が近づいてくること。
私も一度、相手の名前を知らないまま、待ち合わせの駅に立ったことがある。
目の前に来た相手を、なんて呼べばいいのかわからない。
あの、と言ったきり、次の言葉が出てこなかった(泣)
その日は、相手が先に名乗ってくれて、どうにか会話が始まった。
会ったその場で聞くのも、ひとつの手。
その場合は、改めまして、とこちらから名乗るのが早い。
ただ、待ち合わせのやり取りで相手を呼べないのは、思った以上に不便。
会う前日までには、聞いておきたい。
名前を聞く前に、まず自分から名乗る
名前の聞き方より先に決めておきたいのが、自分の名乗り方。
名乗るのは、呼ばれたい形で
名乗るのは、フルネームでなくていい。
下の名前だけ、あるいは、友達から呼ばれているあだ名だけ。
呼んでほしい形で名乗れば、相手は、そのまま呼べばいいとわかる。
私は、下の名前に、友達からはこう呼ばれてます、を添えている。
本名を出すのがまだ不安なら、あだ名で名乗るところから始めてもいい。
会ってから本名を伝えて、責められたことは一度もない。
名字は、もう少し先でかまわない。
名前に、小話をひとつだけ添える
名乗るときに、名前にまつわる話をひとつ添えると、相手の記憶に残りやすい。
〇〇です。よく〇〇と読み間違えられるので、どちらで呼ばれても振り向きます
読み間違えの話、名前をつけた人の話、子どものころのあだ名。
添えるのは、どれかひとつで十分。
二つ三つ重ねると、自己紹介が、文字の詰まった名刺みたいになる。
先に名乗ると、相手も名乗りやすくなる
実家から駅まで、父の車で送ってもらった日のこと。
アプリの話をすると、父は信号待ちで笑った。
お母さんに名前を聞いたらな、人に聞くなら先に名乗りなさいって言われたんだよ
四十年近く前の、職場の飲み会での話らしい。
父はその場で名乗り直して、母はやっと名前を教えてくれた。
名乗る側が先に手の内を見せると、聞かれる側の肩の力が抜ける。
名前を聞くのって、男のほうも、断られたら格好つかないなって思うもんだぞ
ハンドルを握る父の横顔が、少しだけ若く見えた。
母は今でも、あのときの父を、礼儀知らずの人、と笑って話す。
マッチングアプリのLINEで名前を聞く例文
例文は、どれも、自分で送ったか、相手からもらった一通がもとになっている。
LINEに移ってすぐの一通で聞く例文
アプリでは〇〇でしたが、〇〇といいます。
こちらでも、仲良くしてもらえたらうれしいです!
〇〇さんのことは、なんてお呼びしたらいいですか?
名乗る、あいさつ、聞く、の順番。
聞いているのは、本名ではなく、呼び方。
呼び方を聞かれると、相手は、本名にするかあだ名にするかを自分で選べる。
アプリの中ですでにくだけた口調なら、こんな形でもいい。
アプリだと〇〇だったけど、〇〇です。〇〇くんは、普段なんて呼ばれてる?
LINEの名前が読めないときの例文
LINEのお名前、なんて読むんですか?
英字の並びが、ずっと気になっていて
当てにいく形にすると、軽い遊びになる。
その英字、もしかしてイニシャルですか?当てたくて、昨日から考えてました
英字の名前には、たいてい本人なりの理由がある。
読み方から入ると、名前の由来まで話が転がることも多い。
LINEの名前が漢字のフルネームのときの例文
反対に、LINEの名前が、漢字の本名そのまま、という人もいる。
名前はわかっても、読み方と呼び方まではわからない。
お名前の読み方、〇〇さんで合ってますか?
普段は、なんて呼ばれることが多いですか?
フルネームが見えていても、いきなり下の名前で呼ぶのは控えめに。
呼び方は、本人に決めてもらう。
何往復かしてから聞く例文
今さらなんですが、お名前を伺ってもいいですか?
アプリの名前で呼び続けるのも、なんだか申し訳なくて
自分から名乗っていなかったなら、こちらからでもいい。
そういえば、まだ名乗っていませんでした。〇〇です。〇〇さんは?
聞きそびれて数日たったら、今さら、を自分から先に口にする。
聞くほうの照れも、聞かれるほうの戸惑いも、それで軽くなる。
呼び方まで決めてしまう例文
〇〇さんって呼んでもいいですか?
私のことは、〇〇でも〇〇ちゃんでも、呼びやすいほうで大丈夫です
名前がわかったら、その流れで呼び方も決める。
さん付けのまま何週間も続くと、取引先と連絡を取り合っているような気分になるから。
選択肢をこちらから出すと、相手も遠慮なく選べる。
決まったら、その名前で一度、文面の中で呼んでみる。
〇〇さん、覚えました!じゃあ〇〇さん、さっきの旅行の話、続きが気になります
さん付けから始めて、会ってから崩すのが、私のいつもの流れ。
漢字は、会ったときの話の種に取っておく
名前の漢字まで、LINEで聞く必要はない。
会ったときに、こう聞けば、そこから話がひと山できる。
〇〇って、どんな字を書くんですか?
親がつけた由来、学校での呼ばれ方、よく間違えられる読み。
名前の話は、相手の子どものころまで連れてきてくれる。
彼の名前は画数の多い字で、会った日の店で、テーブルに指で書いてもらった。
自分が名前を聞かれたときの返し方
聞かれたら、名乗って、同じ質問を返すのが手っ取り早い。
〇〇です!聞いてもらえてよかった。〇〇さんは、なんて呼んだらいいですか?
名字まで答えたくないときは、下の名前だけを、明るく返す。
〇〇です!名字は、もう少し仲良くなったら発表します(笑)
冗談めかして先送りにすれば、相手も笑って流せる。
断るのではなく、時期をずらすだけ。
それでも重ねて名字を聞いてくる相手なら、その時点で少し距離を置いていい。
名前の聞き方で、相手を身構えさせないために
同じ名前の話でも、聞き方ひとつで、相手の肩に力が入る。
最初から、名字やフルネームまでは求めない
まだ会ってもいない人から、突然フルネームを聞かれると、指が止まる。
名前で検索されたら、という考えがよぎるから。
女性にとって名字は、職場や実家につながる鍵に近い。
男性でも、同じように感じる人はいる。
フルネームが必要になるのは、もっと先の話。
呼び方さえわかれば、デートの約束には十分。
とはいえ、名前を一度も聞かれないまま会う日も、それはそれで落ち着かない。
取り替えのきく相手のひとりになった気がするから。
教えてもらった名前で、検索しない
ここは、私の失敗談。
二年前、アプリで出会った人に、LINEに移ってすぐ、名字から全部を聞いた。
少し間があって、教えてくれたその名前を、夜に検索した。
出てきたのは、彼のSNS。
海で撮った写真の中で、彼は大きな魚を抱えて笑っていた。
最初のデートで、私は何の気なしに口にした。
釣り、お好きなんですよね。あの大きな魚、すごかったです!
彼の笑顔が、一瞬で固まった。
その顔を見て、ぎょっとする。
まさか、それが調べたことの告白になるなんて、口にするまで気づかなかった。
その日の帰り道から、彼の返事は一行ずつ短くなっていった。
三日後、彼のアイコンは、海の写真から、何も写っていない空の写真へ。
結局、二回目の約束は決まらないまま。
はぁ…、あの時の自分の口を、今からでもふさぎに行きたい。
今の彼も、名前で調べられて、会った日に高校の部活の写真を持ち出されたらしい。
あれは普通に怖かった、と真顔で言っていた。
聞いた名前は、呼ぶためだけに使う。
名前を聞いたあとに、質問を重ねない
名前を教えてもらったら、そこで一度、質問の手を止める。
名前の次に、年齢、職場、住んでいる駅と続くと、身元の確認に近くなる。
〇〇さんっていうんですね。おいくつですか?お仕事は?
こう続けて届くと、受け取る側は、書類に記入している気分になる。
名前のあとは、相手が話したがっていた話題へ。
教わった名前で一度呼んでから、さっきの話の続きを聞く。
それだけで、名前が、聞き取りの一問目ではなく、会話の一部になる。
答えが返ってこなかったら、深追いしない
呼び方を聞いても、アプリの名前のままで大丈夫です、という返事が来る日もある。
それは、まだ名乗るほどの安心がない、という合図。
了解です、とだけ返して、話題を戻す。
アプリでの呼び名のままやり取りするのも、失礼には当たらない。
向こうが名乗る気になるかどうかは、相手次第。
名前で呼び合うようになるまで
名前を聞くのにためらうのは、女性だけではなかった。
男性も、名前を聞くタイミングに迷っている
今の彼に、あとから聞いたことがある。
名前、本当はもっと早く聞きたかったんじゃないの、と。
聞きたかったよ。でも、最初に聞いたら、必死な人だと思われる気がして
男性は男性で、いつ切り出すかに迷っている。
詮索っぽく見えないか、引かれないか。
女性のほうから名乗ってもらえると、救われた気になる、とも言っていた。
呼び方を尋ねられたら、こっちも名前を呼ぶ口実ができるから、と。
父の言っていた、格好つかない、は、今も変わらないらしい。
男性から聞くなら、名乗りと一緒に、呼び方の選択肢ごと渡す。
〇〇です、よかったら〇〇って呼んでください。
〇〇さんは、どう呼ばれるのが好きですか?
正直言って、私も、聞かれるのを待っていた側だった。
はじめて名前で呼ばれた日
彼のLINEの、大文字の三つを、私が読めなかったのが始まり。
英字の三つは、名前と名字の頭文字に、地元の野球チームの頭文字を足したものだった。
説明を読みながら、ひとりで声を出して笑った。
お返しに、私も下の名前と、昔のあだ名を。
あだ名を教えたとき、彼は、友達の輪に入れてもらえた気がした、と言っていた。
初めて会った日、駅の出口で、彼が私の名前を呼んだ。
頬が、ぽっと熱くなる。
画面の中の文字だった名前が、急に、人の声になった。
名前って、呼ばれると、こんな感じだったっけ…
私のほうは、彼の名前を声に出すまでに、もじもじと三十分かかった(笑)
今では、LINEの一行目が私の名前
付き合って、もうすぐ一年。
彼のLINEは、たいてい私の名前で始まる。
用がなくても、名前だけが届く夜。
どうしたの、と返すと、呼んだだけ、と返ってくる。
最初のころは、私の名前のあとに、さん、がついていた。
いつ外れたのかは、二人とも覚えていない。
この前、実家で彼の話をしたら、父の最初の質問は、どこの何さんだ、だった。
名字を教えると、今度は、どんな字だ、と身を乗り出してきた。